日本の高等教育機関

(大学、短大、専門学校)

マレーシア進出

ご検討のための

解説及び提案

 

 

 

桜リクルート社・マレーシア

社長取締役:鵜子幸久

執筆担当:諸江 修(取締役・コンサルタント)

2004813

 

 

 

1章 マレーシアにおける高等教育の現状

 

日本の大学、短大、専門学校を運営される高等教育機関の経営者の皆様に、マレーシアにおける高等教育の現状を理解していただくために、当国における小学校からの教育システムを解説し、その後、各高等教育機関の状況の解説を試みるつもりである。

 

この提案書の中で、特にこの第1章に関しては、マレーシアという国状ゆえに、かなりあいまいな数的な情報の提供という形になってしまっている状況を説明したい。マレーシアでは日本のように各種統計の集約が教育関係に関してほとんどなされておらず、日本では簡単に手にはいるような数字が入手困難な状況にある。

 

教育関係以外の1つの例をあげると、マレーシア政府が毎年発表する失業率は、実は政府機関の役人の推測の数字で、決して正確な統計に基づいて得られた数字ではない。なぜなら、失業者の数字を把握する方法がマレーシアに存在しないのである。マレーシアでは1ヶ月10万円以下の給与の人は税金を払う必要がないので、納税という観点から失業者数を調べることはできない。もちろん失業保険も健康保険もない。厚生年金や労災保険に対応するものはあるが、すべての勤労者が加入しているわけではない。つまり失業の正確な数字を調べる方法が存在しないのである。しかし失業率の発表がまことしやかに行われる。それがマレーシアの統計の数字である。

 

一事が万事そのような状況であるということを前提に、この報告書の数字を見ていただきたい。


(1)マレーシアの教育制度

 

マレーシアにおける大学教育以前の学校教育のシステムは、以下の図の通りである。

 

年齢

レベル

学校

年齢

6

 

小学校              中学校         高校       大学

1

タミール語小学校

1

北京語小学校

1

マレー語小学校

6

7

2

2

2

7

8

3

3

3

8

 

試験(I)

試験(I)

試験(I)

 

9

4

4

4

9

10

5

5

5

10

11

6

6

6

11

 

試験(II)

 

12

マレー語中学校への入学準備コース〔マレー語学習〕

 

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13

1

マレー語

中学校

12

14

2

13

15

3

14

 

試験(III)

 

16

4

職業高校

4

技術高校

4

普通高校

15

17

5

5

5

16

 

試験(VI)

試験(V)

試験(V)

 

18

 

6

17

19

6

18

 

試験(IV)

 

20

 

19

 

(小学校)

a.      小学校は教育に使用する言語によって、3つのタイプに分けられる。マレー語、北京語、タミール語である。通常、マレー人はマレー語の学校へ、中国人は北京語の学校へ、インド人はタミール語の学校へ入学することが多いが、従来からマレー語の学校には、インド人や中国人も多く入学するし、最近では中国語の学校にマレー人やインド人の入学するケースも増加しつつある。しかしタミール語の学校へはマレー人、中国人はほとんど入学することはない。まれにプランテーションなどで、近所にタミール語の学校以外に学校がない場合にのみ、特殊なケースとしてマレー人がタミール語学校に入学する場合もある。

b.      小学校における授業科目は、それぞれの言語を国語のように学ぶことを例外にして、科目自体は全て同じであり、カリキュラムも全て同じものを用いている。北京語、タミール語の学校に通う生徒は、マレー語が必修となっているので、その分だけマレー語の学校に通う生徒より1科目多くなっている。

c.       しかし最近のマレーシア政府の方針の変更により、算数と理科の授業を英語で行う学校も増えてきている。将来的にはすべての学校が算数と理科を英語で教えるようになる計画である。

d.      マレーシアの小学校は子供の人口増加のため、校舎が不足しているので、通常2部制で授業を行っている。午前を1年生、3年生、5年生、午後を2年生、4年生、6年生というような形である。教師は生徒同様、自分の受け持ちのクラスだけを担当し、午前、午後に渡って両方の教えるということはない。

e.       マレーシアの小学校教師の9割が女性教師、校長の6割が女性校長と言われているほど、小学校の教師のほとんどが女性である。その理由は教師の給料が低いこと、男性は民間に多くの就職先があるという当国の事情による。

f.        小学3年終了時に全国一斉の試験が課される。(試験I)

g.      小学6年終了時にも全国一斉の試験が課される。(試験II)

 

〔中学校〕

h.      中学校に入学する前に、北京語小学校、タミール語小学校の出身の生徒は、中学からのマレー語での授業についていくための、マレー語習得クラスで1年間勉強することになる。

i.        中学校の授業の全てはマレー語で行われる。しかし最近のマレーシア政府の方針の変更により、全ての学校ではないが、数学と理科の授業は英語で行う学校も増えてきている。将来的にはすべての学校が数学と理科を英語で教えるようになる。

j.        中学3年終了時に全国一斉の試験が課される。〔試験III〕これによって普通高校へ進むのか、技術高校へ進むのか、職業高校へ進むのかが分かれることになる。また成績の極度に悪い生徒は、ここで学校教育を終わりにする者もいる。

 

(高校)

k.      日本の高校にあたる中学4年と5年の授業の全てはマレー語で行われる。しかし最近のマレーシア政府の方針の変更により、全ての学校ではないが、数学と理科の授業は英語で行う学校も増えてきている。将来的にはすべての学校が数学と理科を英語で教えるようになる。

l.        中学5年終了時に全国一斉の試験が課される。(試験IV)この試験が大学進学や就職の際に専攻の最も重要な資料となるものである。この試験で全国で上位100名に入った生徒は総理大臣主催の昼食会に招待され、また最上位の学生は、マレーシアの国費留学生として、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学などへの留学が約束される。毎年最高の成績を修めた生徒は、新聞やテレビのインタビューが殺到する。

m.    中学5年終了の試験の後に、2年間の中学6年がある。これは大学入学のための予備教育である。そして2年のコースの後、中学6年終了試験(V)が課される。

 

(私立学校)

n.      マレーシアにおいては、外国の教育制度に基づいて行われる私学教育も行われている。たとえばインターナショナル・スクールと呼ばれる英語で授業を行い、アメリカまたはイギリスの制度に従う学校も数多くある。これらの学校は、アメリカやイギリスなどの教育産業が利潤の追求のためにビジネスとして行っている営利事業で、授業料も非常に高く、主に外国人の子弟および裕福なマレーシア人の子弟が通っている。

o.       また主として台湾の教育システムを参考して北京語で高校3年まで授業を行う独立中国語学校と呼ばれる私立の中国語の学校が60校マレーシア各地で開校している。これらの学校は中国系の資産家の寄付による資金によって作られ、中国系のコミュニティが理事会を形成している場合が多い。

 

(義務教育)

p.      マレーシアでは公式には義務教育という概念は存在しない。教育は国民の権利と考えられており、教育を受けたい者は誰も受ける権利があるとされている。これはマレーシア文部省の公式の見解であるが、各学校を訪問し、教師たちと話をすれば、マレーシアは中学5年までが義務教育であるとか、小学校6年までが義務教育であるとか、自分たちの思い込みで発言をするが、それは間違いである。

 

 


(2)マレーシアの高等教育機関

 

マレーシアにおける大学教育以上の高等教育機関は、国立大学、私立大学(ユニバーシティ)私立大学(カレッジ)、外国の大学の分校の4つに大別される。

 

1)国立大学

 

マレーシアには、マラヤ大学(UM)、プトラ大学(UPM)、国民大学(UKM)、国際イスラム教大学(UIA)、工科大学(UTM)、理科大学(USM)、マレーシア北部大学(UUM)、サバ大学(UMS)、サラワク大学(UNIMAS)の9つの国立大学がある。

 

a.      国立大学には入学試験というものはなく、全国一斉試験の結果によってそれぞれの学部学科で選考が行われる。

b.      大学の入学枠は、マレーシアの民族ごとの人口比率によって決められている。一般的に好成績の生徒が多い中国系にとって国立大学は狭き門であり、逆にマレー系の生徒にとっては広き門である。これはマレーシアの民族格差をなくそうとする政府の方針によるものである。

c.       最近の傾向は、どの大学でも女子学生の数が、男子学生より多くなっているということである。

d.      すべての国立大学が広大なキャンパスを持ち、大きな建物をたくさん所有してはいるが、最新の設備と最高の教授陣を備えているとは言いがたい状況である。

e.       大学の教授陣の民族構成にも政府の方針が反映されていて、マレー系の教師の教授への昇進が早く、他の民族出身の教授就任は困難といわれている。

f.        国立大学は、全ていわゆる総合大学で、文系、理系の学部がある。また修士課程、博士課程の大学院も設置されている。通常は3年制であるが、工学部は4年、医学部、歯学部は6年の年限となっている。

g.      国立大学の学部の講義は、原則としてマレー語で行われることになっているが、マレー語自体が学術的な語彙をほとんど持っていないので、マレー語と英語が併用される場合がほとんどである。また講義に使用される教科書、参考書などの9割以上が英語で書かれている。修士、博士課程はほとんどの学部で英語のみが使用されている。

h.      マレーシアの国立大学の世界的な評価は、アメリカの総合雑誌の評価では、2000年度で、マラヤ大学がアジアで60番目、プトラ大学が65番目となっていたとのマレーシア文部省の役人がある会合で発言していた。(出典は不明。因みに1位はシンガポール大学、2位が東京大学、3位が京都大学だったそうである。)

i.        国立大学は、昨今の日本と同じく独立法人としての道を歩みつつあり、大学内にビジネスセンターやインキュベーション・センターを設け、学内ベンチャーの育成に努めている。また企業からリサーチ依頼などを積極的に受け入れている。しかし企業との合弁事業などに関しては、すべて文部省の認可が必要で、官僚制度の弊害から、合弁契約の認可が1年以上も出ない場合もあり、マレーシア政府の政策がスムーズに行われているとはいえない現状がある。

j.        国立大学の授業料は、年間で5万円ほどである。

 

2)私立大学(ユニバーシティ)

 

マレーシアの私立大学はその性格から2つに大別できる。ユニバーシティと呼ばれる私立大学は、教育財団や企業が設立し、その大学で学位を出すことのできる私立大学である。もう1つ、カレッジと呼ばれる私立大学は、その大学が学位を出すのではなく、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどの大学の講座を開講する教育機関である。

 

a.      現在マレーシアにある、ユニバーシティと称する私立大学としては、教育財団が設立したマラ工科大学、電力会社が設立したテナガ大学、マルチメディア開発公社が設立したマルチメディア大学など、計13校がある。

b.      いずれの大学も原則として、英語またはマレー語で講義を行っている。

c.       文系、理系の学部があり、入学試験というものはなく、全国一斉試験の結果によってそれぞれの学部学科で選考が行われる。

d.      民族による大学の入学枠の一律の制限はないが、マラ工科大学はマレー人とサバ人、サラワク人のみを対象としており、また中国人が多い大学もある。通常、国立大学に入学できないレベルの学生が行く場所である。

e.       最近の傾向は、どの大学でも女子学生の数が、男子学生より多くなっているということである。

f.        国立大学に較べると貧弱な設備と狭いキャンパスで、最新の設備と最高の教授陣を備えているとは言いがたい状況である。

g.      私立大学(ユニバーシティ)の教授陣は、経費節約のために、給料の安いパキスタンやインド出身の教授が多い傾向がある。

h.      各私立大学(ユニバーシティ)は、いわゆる総合大学で、文系、理系の学部がある。また修士課程、博士課程の大学院も設置されている。通常は3年制であるが、工学部は4年、医学部、歯学部は6年の年限となっている。

i.        私立大学(ユニバーシティ)は研究機関というより教育機関としての役割に重点が置かれている。

j.        私立大学(ユニバーシティ)の授業料は、年間で3万円から20万円と大学によって異なる。

3)私立大学(カレッジ)

 

マレーシアにおけるカレッジとは、欧米のカレッジとは全く違う存在である。それは大学というより、カルチャーセンターに近いものである。教室を用意し、コースを設定し、そのコースを行うことのできる講師を募集し、シラバスや教材、コースを提供するイギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの大学から取り寄せ、生徒募集その他の事務を行い、雇った講師によって講義を行い、試験やコースを提供する大学から試験官を迎えて行うのである。そしてコース終了時には学位を授与する。このようなカレッジがマレーシアにはここ数年雨後の筍のように出現し、あるものは消え、あるものは不正によって閉鎖され、あるものは数万人の学生を集めている。

 

a.      現在マレーシアにある、カレッジの数は、400とも500とも言われている。現時点の正確な数字は文部省の担当官は把握していると思われるが、公表はされていない。

b.      いずれのカレッジも原則として、英語で講義を行っている。

c.       文系、理系の学部があり、入学試験というものはなく、全国一斉試験の結果によってそれぞれの学部学科で選考が行われる。

d.      一部のカレッジでは修士、博士課程もあるが、MBAなどの学科に限定されている。

e.       民族による大学の入学枠の制限は全くない。通常は中国人の学生が圧倒的に多い。その理由は国立大学に中国人が入りにくいこと、また授業料が高いので比較的裕福な中国人のみが入学できるという状況のためである。また現在では、世界で一番安くアメリカ、イギリスの大学の学位が取得できる場所との歌い文句に誘われ、アジアやアフリカ、特に中国からの留学生が急増している。実際には、ネパールやバングラデシュのカレッジの方が授業料は安く、アメリカ、イギリスの大学の学位をマレーシアの半分以下の金額で取得できるが、マレーシアは生活環境がそれらの国に較べると抜群に優れているので、多くの留学生が集まっている。

f.        国立大学や私立大学のユニバーシティに較べると貧弱な設備と狭いキャンパスで、教室と小さな図書館と食堂があるだけというのが普通のカレッジの姿である。ほとんどのカレッジがキャンパスを持たず、ビルの一角を間借りしている。

g.      カレッジの教授陣は、経費節約のために、ほとんどが非常勤である。

h.      アメリカの大学のコースでは4年のものもあるが、他のコースは通常は3年制。また最終の1年を本校で学ぶというツイニングという制度を採用しているカレッジも多い。もともとカレッジはツイニングで始まったが、マレーシア人学生の保護者の要望で、すべてをマレーシアで行う傾向になっている。

i.        カレッジは研究機関ではなく、教育機関である。

j.        私立大学の授業料は、年間で30万円から60万円とカレッジによって異なる。

 

4)外国の大学の分校

 

現在マレーシアには、モナッシュ大学、ノッティンゲン大学などの外国の大学の分校がある。

 

a.      これらの分校は、本国と全く同じシステムで講義を行い、学位を授与している。

b.      状況は、学生や教授陣、施設・設備に関しては、私立大学のカレッジとほぼ同じである。

 

 

5)専門学校など

 

マレーシアの場合、専門学校もカレッジの中に取り込まれている。たとえば、ホテルマネージメントのコースのカレッジで2年学ぶとディプロマ(卒業証書)がもらえ、3年学ぶと大卒の学位がもらえるという形になっているところが多い。コンピュータグラフィックやデザインなどのコースは、ディプロマより上のコースがないという場合もある。

 

a. 状況は、学生や教授陣、施設・設備に関しては、私立大学のカレッジとほぼ同じである。

 

6)海外留学

 

a.      マレーシアと日本の決定的な違いは、マレーシアでは最優秀の学生や富裕層の子弟はマレーシアで大学教育を受けないということである。よく日本人の中小企業の社長が、国立マラヤ大学が出身の社員を雇って、マレーシアの東大出を雇っているんだ、と自慢する人がいるが、マラヤ大学の現実は、日本の地方の国立大学レベルであり、決して日本の東大に該当する高等教育機関ではない。よく言って、広島大学や金沢大学のような存在である。

b.      マレーシアの最優秀の学生は、マレーシア政府からの国費留学生として、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学などのイギリスの大学に留学をする。


(3)学生数

 

マレーシアの高等教育機関に在籍する学生の数をまとめた統計は、公式には発表になっていない。おそらく文部省は統計を取っていないと思われるが、そのような統計があるかどうかを、現在、弊社のマレーシア人調査担当者が、文部省に問い合わせ中である。調査項目としては以下のとおりである。

1)国立・私立別学生数

2)男女別学生数

3)学年別学生数

4)専攻別学生数

 

(1)   留学生数

マレーシアの高等教育機関に在籍する海外からの留学生の数をまとめた統計は、公式には発表になっていない。おそらく文部省は統計を取っていないと思われるが、そのような統計があるかどうかを、現在、弊社のマレーシア人調査担当者が、文部省に問い合わせ中である。調査項目としては以下のとおりである。

1)国立・私立別留学生数

2)男女別留学生数

3)学年別留学生数

4)専攻別留学生数

5)出身国別留学生数


2章 マレーシアの文部省の方針

 

(1)マレーシア人の高等教育化

 

マレーシアの文部省は、マレーシアを2020年までに先進国の仲間入りさせるという政府の方針(ヴィジョン2020)に従い、先進国の市民として相応しい、高等教育を受けた国民を数多く輩出することを基本的な方針としている。

 

その方針にそって、約10年前から教育の自由化が始まり、今まで国立大学以外に大学教育というものが存在しなかったマレーシアに私立大学の設立が認められ、多くの外国の大学の講座を開設するカレッジが設立された。

 

現在、マレーシアの人口は2300万人であるが、先進国の仲間入りをする2020年には7000万人を目標としているために、「生めよ増やせよ」の人口増加政策をとっている。特に人口の60%以上を占めるマレー系の出生率は非常に高い。つまりマレーシアはベビーブームの国であるということができる。そのようにして生まれてきたたくさんの子供たちを教育するためには、多くの教育機関が必要である。特に先進国として、知的労働や高い技術を持つ人材を輩出するには、高等教育機関の充実が急務であることは、マレーシア政府内部の一致した見解である。

 

それゆえ、マレーシア政府は教育への多大な投資を行ってきている。日本との関係でいえば、日本政府のODAの中で唯一教育のソフト面で継続的に行われている、日本への留学生のために日本語教育を含む予備教育がある。毎年200名を超える留学生を日本のODAで日本の各大学に送り出している国は世界の中でマレーシアだけである。

 

また高等教育を推進するために、今まで民族主義、愛国主義の表れとして推進されてきたマレー語での教育という方針を大きく変更し、小学校から理科系の科目を英語で教えるというシステムの導入に踏み切り、順次英語での教育への転換がなされている。全国一斉に英語への切り替えの出来ない理由は、教える教師の英語能力の問題である。しかしそれも研修制度の導入で、数年後にはすべての学校で理科系科目が英語で教えられることになる。また大学教育においても英語の復活が進んでいる。

 

マレーシア政府は、日本の明治政府が日本を教育を持って強国へ押し上げていったのと同様に、国民の高等教育化をもって、国を先進国に仲間入りさせようとしているのである。

 

 

(2)マレーシアを世界の教育の中心へ

 

マレーシア文部省のもう1つの方針は、マレーシアを教育産業の中心にしようと計画である。それはマレーシアが世界中の留学生が集まる世界の教育の中心となることである。教育をマレーシアの重要な産業の1つと位置付けるという考え方は、マレーシアにとって新奇な考えではない。それはマレーシアの旧宗主国のイギリスに習ったものである。マレーシアの指導者の多くがイギリスに留学し、イギリスでの教育というものを肌で感じてマレーシアに戻ってきた。たとえ国の産業や経済において世界のトップを走ることがなくなっても、教育を持って、世界の各界の指導者を教育することで、世界の人々から師と仰がれる存在、それがイギリスである。旧殖民地からの留学生はイギリスを慕いこそすれ、憎むようなことはない。留学生のほとんどがイギリスのファンになり、帰国するのである。教育を持って人材を要請することは、大学という教育産業を富ませるだけでなく、世界中に自国のファンを創造することであるという認識のもとに、マレーシアは世界の、特にアジア、アフリカを中心とする第3世界の学生たちが学ぶ教育の中心となる道を歩み始めたのである。

 

マレーシアという国は、第3世界の留学生にとって、魅力的な要素の多くを備えている国である。その要素を列挙すると以下のごとくである。

a.      英語を公用語としているために、英語の教育が受けられ、日常生活においても英語で生活することができる。

b.      英語圏の国の中で留学生が生活するための物価、住宅の家賃などが格段に安い。

c.       政治的に安定しているために治安もよく安全が保証されている。

d.      多民族国家のために外国人留学生が外人として疎外されることがない。

e.       中国からの学生にとっては、中国系マレーシア人が中国人と同じライフスタイルで生活しているので、ほとんど違和感なく生活ができる。言葉の面では、最初に英語ができなくても中国語で生活ができる。

f.        イスラム圏からの学生にとって、イスラム国家のマレーシアは、安心して食事(イスラム教徒はハラルというイスラム教徒専用の食品しか食べることができない)ができ、宗教的な差別を受けることがない。

g.      アジアの中心に位置しているので、多くの国からのアクセスがよい。

h.      学生ビザが簡単に下りるので、留学への支障がほとんどない。

i.        アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドの大学の講座を持つカレッジが500校近く存在する。またその授業料がそれらの国に行くよりも安く、かつ生活費も安い。

 

このような条件の中で、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドの大学は競ってマレーシアで講座を開講して来た。しかし英語圏以外の大学の進出は現在のところ全くないのが現実である。

 

マレーシア政府としては、今後も多くの留学生を受け入れ、教育産業をマレーシアの重要な産業の1つと位置付けていくと同時に、さらに魅力的な留学先になるためにも、英語圏以外の大学の進出を大いに期待している。マレーシア文部省の高等教育科の担当官によると、タイに早稲田大学の大学院が進出したことにマレーシア政府は大きなショックを受けたとのことである。なぜ早稲田大学は英語を公用語としないタイに大学院を作ったのかが理解できない、マレーシアなら英語を第1言語とする人材に余分に給与を払うことなく教職員として採用でき、すべて英語の環境で大学運営ができるのに、早稲田大学のタイ選択は費用の面から言っても間違っている、また各国からの留学生の受け入れ制度もマレーシアようにタイは充実していないので、学生募集にも大学は苦労するであろう、との見解を述べていた。


(3)ルック・イースト政策

 

マレーシアのマハティール前首相が提唱したルック・イースト政策とは、マレーシアは日本を手本して、日本に学べという政策であった。この政策はアブドゥーラ新首相にも引き継がれ、マレーシアは今も日本の最大の友好国の1つとなっている。

 

中国や韓国とは異なり、過去の戦争の償いや靖国神社問題などは、マレーシアでは全く問題にならない。日本が1941年から45年まで軍事的に占領したマレーシアであるが、人々は過去にこだわらず、現在と未来の友情を築こうとしている。そして日本を学ぶべき師として、国を挙げて熱いまなざしで見つめているのである。

 

ルックイースト政策の一環として、先にも述べた日本政府のODAによる留学生の派遣は20年以上にも渡って実施され、多くのマレーシアの学生が日本の大学を卒業した。数万人に及ぶ日本への留学生が、日本のファンとなり、日本の間のビジネスにおいて活躍している国がマレーシアである。

 

今、マレーシアは日本へ留学生を送るだけでなく、日本の私立大学のマレーシアへの進出、特に大学の分校の進出を歓迎するという立場を取っている。現在、マレーシアの文部省のガイドラインは、高等教育機関で使用できる言語を英語、マレー語、アラビア語に限定しているが、日本の私立大学が進出してくる場合には、特例として日本語での教育を認める方針である。

 

実際、サラワク州に設立が予定され、本来ならば今年の6月に開校予定であった日本マレーシア工科大学は、日本語と英語による教育という方針が出された。政治主導のみが先行し、事務方の作業の遅れによっていまだこの大学は開校には至っていない。しかしマレーシア政府が日本の私立大学に日本語での教育を許可し、マレーシア人の学生だけでなく、世界中の学生にマレーシアで、日本の大学の学位を取得するチャンスを与えたいと願っていることは明白な事実である。

 

政治的、制度的に、ここまで日本の私立大学の進出に有利な条件が揃った国はマレーシア以外には見出すことはできないと思われる。


第3章      マレーシアにおけるビジネスとしての大学設立

 

(1)マレーシアの人口

 

マレーシアの人口は増加の一途をたどっている。以下のその様子を示したグラフである。

 

 

a.       2002年7月現在の人口は、22,662,365人である。